密かな想い

本文

「はい、雛子ちゃんと亞里亞ちゃんはそろそろお片づけ始めてね。鞠絵ちゃんは二人のお守り、お願い。衛ちゃんと鈴凛ちゃんはお皿を運んで可憐ちゃんと白雪ちゃんはそのお皿を洗って……」 目の前でブロンドのツインテールが右へ左へと揺れている。しなやかな動きをするその髪は毎日おこなわれている入念な手入れの賜物だろう。その髪がふわりと翻ってかわいい……いや、美しいというべきか……顔がこちらを見る。 「千影ちゃんは掃き掃除をお願いね♥」 一瞬だけこちらを見たその顔に心が乱される。
……ここは亞里亞ちゃんの家。そして今は掃除の時間だ。私達がお邪魔したあとはいつも大変なことになっているので、今度からはきちんと片付けてからお開きにしよう、ということになったのだ。提案者はもちろん、今そこで片付けの指揮をとっている彼女だ。 がっしゃーーーん 「きゃーっ」 「花穂ちゃん……なんでちりとりでゴミを受けるだけなのにそんなことに……」 「ふぇーん、花穂またやっちゃったぁ……」 「ムムムっ、どうやらこのホウホウはfailureだったようデスね……それじゃあ今度は花穂ちゃんが回転しながら…………ちぇ、チェキ！？咲耶ちゃん、stop、おちつくデス！これは……」 「…………四葉ちゃん？」 「さ、咲耶ちゃんお顔は笑ってるけどコワいデス〜〜っ」

バタバタしながらも掃除は終わり、それぞれ帰路につくこととなった。 「まったく……四葉ちゃんのお陰でだいぶ遅くなっちゃったわ。」 そう言う彼女の表情には、そのセリフの内容とは裏腹に笑みが浮かんでいた。 「いつも……キミひとりに任せてしまって…………すまないね……。」 私は、日頃から思っていたことをふと声に出していた。すると隣を歩いていた彼女が3歩先に行き、くるりとこちらを振り返る。兄くんに似て凛々しく、しかし兄くんとは違う女の子らしい顔立ち。夕日に照らされたその髪は輝く黄金の絹糸のようだった。 「何いってるの。こういうのには得手不得手っていうものがあるんだから、千影ちゃんは気にしなくっていいのよ。それに……」 「……それに？」 「『一応』私が長女なんだから、ね♥」 そう言ってウィンク。ふたたび私の心に漣がたつ…………。
どうやら彼女も兄くん同様「魅惑（チャーム）の魔法」が使えるらしい。しかもその魔力は兄くんのそれよりも強力なようだ…………なぜなら同性である私にも効果があるようだし、すでに私の心は兄くんよりも……。 「どうしたの？千影ちゃん、ぼーっとしちゃって。」 気が付くと彼女は私の顔を覗き込んでいた。 「いや……なんでもないよ…………。」 ふたたび並んで歩き出す。
今はまだいい。しかし近いうちに必ず、キミの心を私だけのものにするよ…………咲耶ちゃん。

（終）